レポート

2024/03/22

<寄稿>「発達障害について学ぼう!」全10回シリーズ
第5回
「通常の学級と支援級と支援学校の違い」

中部学院大学非常勤講師

山内康彦

 学校は、大きく分けると「通常の学校」と「特別支援学校」の二つに分けることができます。

特別支援学校とは

 以前“養護学校”と言われました。通常の学校では十分な対応ができない障害の重い子どもたちの学びの場です。特別支援学校の入学希望者は、この30年で2倍に膨れ上がり、現在は、原則障害者手帳を取得していないと入学ができない状況になってきています。(※都道県によっては“精神手帳”でも入学できない所があるので注意が必要)学びの内容は『自立訓練』や『生活単元学習』といった「将来自立して生きていくために必要な力」を身につけることが中心で、将来進学するための学習は行わないので注意が必要です。

特別支援学校高等部を卒業しても原則高卒資格はない?

 大学に進学する生徒はほとんどいませんが、知的に遅れのない「病弱」や「肢体不自由」、「盲・聾」の生徒は、通常の高校の学習と同じ内容を学んで進学する場合はあります。将来、「よりよい障害者就労ができるようにするための職業訓練的な学び」が特別支援学校高等部では中心になってきます。注意としては、特別支援学校から通常の学校に転籍することは法的には可能ですが、通常の学校に受け入れる体制が十分にない場合が多く、一度特別支援学校を選択した場合は、高等部までずっと支援学校になる場合がほとんどです。特別支援学校を選択する場合は、ある程度の覚悟と確認が必要です。

身辺自立などの適応能力が最も大切

 「通常の学校」に入るためには、“学力”が重要に思われますが、まずは“適応能力(身辺自立・社会性など)”が十分に身についていることが大切です。特に『身辺自立(トイレの自立・食事の自立・着替えの自立)』は絶対に必要です。なぜならば、特別支援学校は、1クラスの担任が2人体制ですが、通常の学校は1クラス1人担任制だからです。例えば、通常の学校の特別支援学級にオムツを使用している子どもが入ってきてしまうと、オムツ交換の時には、教室に指導者がいない空白の時間ができて、他の子どもたちへの指導がまったくできなくなるからです。よく、「園の時のように加配を増やせば良い」という保護者もいますが、年間100万円を超える加配の予算を、一人の子ども為につけるほど、教育委員会の予算は豊富ではないのです。

次に判定の基準になるのは「知的な課題の有無」

 その上で、次に知的な課題があるかどうかが問われます。知的な課題がある場合は、「知的学級」、知的な課題は少ないが、集団になじめないなど、情緒面に課題があると「自閉・情緒学級」ということになります。知的な問題と情緒面の問題が両方ある場合は、知的が優先されて、知的学級になります。最大8人までの子どもたちを1人で担任する少人数体制なので、よいように思われますが、担任の専門性の問題と指導が大変な生徒が増えている問題等があり、実際は“特別支援学級に行けば手厚い支援が受けられる”というような甘いものではないことはご承知おきください。特別支援学級に転籍したら、もっと支援が必要な子が多く、十分な支援が受けられなかったというトラブルをよく聞きます。

高校進学には内申点が重要

 「知的学級は」“その子に合った学習をする”と言えば聞こえがよいですが、学習全体の進度が遅れることに注意が必要です。将来の進路を早くから考えて、中学卒業までにどこまで学習を進める必要があるのかを「個別の支援計画」の中で明確にしていくことが必要です。「自閉・情緒学級」は、原則、その学年の学習をすすめていきますが、中学生になったときに高校進学に必要な「内申点(通知表の1~5)」がつくかどうかは確認しておく必要があります。一般的に通常の高校入試には、この内申点が重要なポイントになるからです。(※現在、同じ市町村の中学校でも、支援級で内申点がつく学校とつかない学校が混在していることが多く、中学3年生の進路指導の時になってトラブルになるケースをよく聞きます。中学校入学前の確認が大切になります。)

今、人気の通級制度

 また、現在は、通常の学級に在籍しながら、週に数時間個別支援を受ける「通級」という制度があります。大人気の支援体制です。複数年継続的に専門的な先生に支援をうけられことは大変有効です。通常級の担任への支援も行うので、通常級の中での支援の質も高くなります。しかし、需要に対して、通級の担当ができる専門的な先生の数が少なく、思うように通級が増やせない問題もあります。また、自校に通級がない場合は、保護者が平日送迎をしなくてはいけない問題もあります。このように通常の学校の中でも現在は様々な特別支援が受けられるようになっているのです。ちなみに「特別支援学校」か「通常の学校」や「通常の学級」、「特別支援学級(知的)」、「特別支援学級(自閉情緒)」なのかは、学校を管轄する市町村教育委員会の中にある専門の委員会(判定委員会)で行われることになっています。詳しくは、地元の市町村教育委員会に問い合わせてみるとよいと思います。

山内康彦

中部学院大学非常勤講師
学校心理士SV・ガイダンスカウンセラー
(一般社団法人)障がい児成長支援協会 代表理事・元日本教育保健学会理事

山内康彦

1968年3月30日生まれ 岐阜県
 専門は特別支援教育と体育。岐阜県の教員を20年務めた後、坂祝町教育委員会で教育課長補佐となり、就学指導委員会や放課後子ども教室等を担当。その後、岐阜大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学び、小中高・特別支援学校の専門職修士となる。その後、学校心理士やガイダンスカウンセラーの資格も取得。私立小学校の勤務を経て、現在は(一般社団法人)障がい児成長支援協会の代表理事を勤めながら、学会発表や全国での講演会活動、教職員等への研修講師を積極的に行っている。現場目線で、具体的な解決策を提案する講演会は各地で好評を得ている。2020年3月には、岐阜大学大学院地域科学研究科を修了。本年度、学校心理士スーパーバイザー(SV)資格取得。著書には「特別支援教育って何?(WAVE出版)」「体育指導用教科書(学研)」「特別支援が必要な子の進路の話?(WAVE出版)」等多数あり。

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